第2話 : 初めてのおつかい



まさか扉があんなに強いとは・・・



この間はヒドイめにあった。
まさか初めての死が圧死だとは・・・
でも大丈夫。
扉を開ける前にちゃんとセーブしておいたから。
ボクは用心深いのだ。


あのときの黒スライム(仮)もそれほど強くはなかった。
持っていたナイフやりんごを投げつけて
ちゃんと成敗できた。


そうそう。
このゲームは手に持てる物ならなんでも投げられる。



落ちていた石を黒スライム(仮)に投げつける。
コツンと、軽い音が響く。

なるほど。
本当は石なんかより、
ナイフや手裏剣みたいに、とがった物のほうが痛いらしい。

と、いうことは、
たぶん重い物も痛いんじゃないかな。




芸術は爆発だ!

いや、爆発はしなかったが、
やはり重いモノを投げつけるのは効果があるようだ。
ドスン!と鈍い音がする。キモチイイ・・・

かといって持てる重量にも限度があるし、
この重い絵をいつまでも持ち歩くのはイヤだなぁ。
もっとまともな武器が欲しいぞ。



そう言っていると偶然にも鎌を拾った。
さっそく手にとると、本物の武器の重さに思わず感動してしまう。
これなら相当なダメージを与えられそうだ。
ボクでも戦えそうな気がしてきたぞ。



・・・・・・・・・




んー



でもさ、





うれしいけど鎌。

武器だけど鎌。

イケメンなのに鎌。

正直言って今のボクの姿、
あまり他人に見られたくないです・・・
他の武器はないのか。
もっとオシャレでボクにぴったりのやつ。



と、偶然にも武器屋を発見。
なんてタイミングが良いんだろう。
いや、良すぎる。
さっきからそうだ。
ボクが何かを望むとそれが目の前に現れる。
まるで導かれているように・・・

不思議だ。なぜだろう。
この世界のことをボクはよく知っているような気がする。


もしかして、

ボクを操縦しているプレイヤー、

このゲームをクリアしたことがあるのでは?

しかも何回も。



・・・やめよう。
これ以上の詮索は危険だ。
神を怒らせてはならない。
あまり余計なことを言っていると
また変な死に方をしそうだから。



とりあえず大人しく店内に入った。

ショーウィンドーを挟んで
左右にカウンターが2つある。

左が買い取りカウンター。
右が販売カウンターだね。
さっき攻略サイト見てきたから間違いない。



さっき拾った鎌が売ってる。
金貨1枚に銀貨2枚。
けっこう高いんだな・・・



これはもう論外。
ボクの全財産の何倍だろう。
ちくしょう。足元見やがって。

ショーウィンドウをぶっ壊してやろうか。
どうせゲームだ。
なにごともチャレンジしておかないと、
後で後悔することになるかもしれない。



ヒュッ! カツン!



・・・・・・・・
強化ガラスなのだろうか。
それともボクが非力なだけだろうか。
ショーウィンドウにはヒビひとつ入らない。

結論。

色男、金と力は無かりけり。



お。これなら手が届きそうだ。
緑宝石2個と、金貨1枚。

ボクの財布には緑宝石は1個しかないけど、
金貨がいっぱいあるから間に合うかな。



とりあえず緑宝石1個と金貨3枚を置いてみる。
・・・首を横に振られてしまった。
ケチなジジイだ。そんなことじゃモテないぞ。

ここからは銅貨を1枚ずつ置いていく。
こうやって少しずつ金額を上乗せしていくと、
定価より安く売ってくれるらしい。
これも攻略サイトに載っていた。



ようやくボクの物になった斧。
さっそく辻斬り。じゃなかった。試し切り。

使い勝手はなかなか良好。
ダメージも命中率も今のボクには丁度良い。

しかし問題が。



左手にアタッシュケース。
右手に斧。


もう諦めました。
どうやらイケメンじゃないみたいです、ボク・・・



ブツブツ言いながら歩き回っていると
なにやら不思議な看板があった。

どう見てもビールのジョッキに見える・・・
まさかこの世界に飲み屋が存在するとは思えないし、
食料品店かな?



中に入ると、
いくつかのテーブルと水飲み場があった。

水・・・?

そういえばボク、
ゲーム開始から1度も水を飲んでいないんですが。

これはいかん!
あやうくこのゲームでもっとも珍しい死に方、
ミイラ死を体験するところだった・・・




どこで拾ったか忘れちゃったけど、
空っぽの水筒を持っていたのを思い出した。

そういえば家には水飲み場は無かったし、
水の補給ができる場所は、
ちゃんと覚えておかないといけないな・・・



満タンになった水筒。
これで3回分の飲み水が確保された。

・・・・・・

今ふと思ったんだけど、
ボクの書いている内容ってさ、
すげぇ攻略記事くさくないっスか?

気のせいだよね。うん。
そんなことより何か買おう。
持っていた食料はあまり残ってないし、
ある程度は買い込む必要があるかも・・・





ぬお!

・・・びっくりしたぁ。誰だこいつ。

モンスターにしては攻撃してくる気配がない。
部屋の隅で微動だにせず、ボクを見ている。

用心棒か・・・

そういえば、
さっきの武器屋でも背後から視線を感じていたような気がする。
それぞれの店に用心棒がいるのか。
ヤツはまるで品定めをするかのようにボクを見ている。
気に入らねえ。
ボクの現在最強の武器、絵画を投げつけてみようか。

いや、やめておこう。
たぶん間違いなく、この前と同じようなオチになるから。




なんだこれは。
まさか・・・食料?

店長の趣味かな。
グルメなボクには理解できない世界だ。



うわ。アホみたいに高いぞ。
しかもすげぇまずそう。

マナの花って言うからには、
食うと賢くなるのだろうか・・・
それならボクは一生あぽで良いです・・・



お。これは安い。
ちょっと重そうだけど、
もうこうなったら贅沢も言っていられない。
人間の食い物ならいいや。

それに、
値段と満腹度を考えれば、
コストパフォーマンスは良さそうだな。



さっそく右側の販売カウンターで取り引きだ。

店主が反対側にチーズを置く。
ボクがこっち側に銀貨を置く。

店主がテーブルをくるくる回して取り引き終了。



ん。
ボクがチーズを受け取ると、
向こう側で店主がまたチーズを置きやがった。
もう1個買えってか?

商売上手なジジイだ。
まぁ育ち盛りのボクならチーズの2個くらい、
すぐにでも召し上がってご覧に入れましょう。

あ、でも銀貨はもう無いぞ。
金貨でもいいよね。
おつり、ちゃんとくれるよね。

店主をちらっと見て、
金貨をテーブルの上に・・・
テーブルの上に・・・

  あ。


ち、
ちがうんだ。
ま、まって。





















今日の教訓。

「物を投げるときは相手を選べ」