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一年中、雪の降り積もる島、ディシート。
白熊、アザラシなど、他では見られない動物たちと共存する島。
この島の裏側にあたいが店を構えてから、もう2年が経とうとしている。
平和な2年間だった。
ブリタニアで生きるため稼ぎに出かけたり、
ダンジョンで窮地に陥っている友人を助けるために奔走したり。
そうして疲れ果てて帰って来た時、
いつもこの家はあたいを暖かく迎えてくれた。



今日はのんびり店番をしている。
陽の当たるテーブルに日記帳を広げ、
暖かいミルクを傍らに、今この日記を書いている。

時折、通りかかる人が店の商品を買って行く。
「Emeraldas」と銘が入った武器を大事そうに抱えて帰る姿を見ると、
鍛冶屋になって良かったと心から思うのだ。



もうすぐこの島にも夜が来る。
月明かりに照らされる一面の銀世界。
ディシートの夜はブリタニアで最も美しい夜だ。

こうして今日も何事もなく、
あたいの一日が終わるはずだった。


彼女の一言が無ければ・・・











Kohaku()

Kohaku()

Emeraldas()
誰かの家を鶏で埋め尽くしたい……

ぎゅうぎゅうに……

Σ(=Д=)

突然物騒な事を言いだした彼女。
もしや・・・あたいの店が狙われている・・・?

Kohaku()

Emeraldas()

Kohaku()

Kohaku()
狙い目はフィアちゃんちかコテツさんちかなって

しょんぼりギルドハウスを襲撃という名目で(=|

おお(=▽=)

エメさん………やらない…?(=|

協議の結果、ターゲットはFiaちゃんの家に決定。
あたいの店が襲撃されるという最悪の事態は避けられた。
しかし、己の身可愛さに友達を売ったあたいの良心が少しだけ痛む。




Kohaku隊長の指示に従い、
すぐさまニワトリの捕獲に取りかかる。
あたいの調教スキルは99.8である。
ニワトリを手なずけるくらい造作もない。




P16導入により、
連れ歩けるペットの数に制限ができた。
現在ユニコーンに乗っているあたいだと3匹しかニワトリを捕獲できない。
ひとまずFiaちゃんの家に輸送してから、
次の3匹を探すことになる。
思ったより大変な作業だ。







そして、森の中を走り回るうちに数分が経過。

と!
Kohaku隊長から緊急連絡!
ターゲットの家で何か大変な事態が起こったらしい!
急いで現場に戻らねば!
隊長!ご無事ですか!





なんと、
ついさっきあたいが連れてきたばかりのニワトリが、
すべて殺害されている!
無惨に転がる死体。流れる鮮血。


誰の仕業だ!


あたい達の作戦を阻止しようとする者が・・・いるのか?
単独犯か・・・?複数犯か・・・?
空白の時間は5分足らず。
現場に証拠は残っていない。
プロの仕業だ。

突如として現れた「敵」の存在に、
辺りに緊張が走る。



Kohaku隊長が重要な点に気付いた。



わざわざ死体を解体する犯人・・・


解体・・・


もしや・・・
















彼しかいない!ヽ(`Д´)








疑念が確信に変わった。
よくよく考えればここはFiaちゃんの家。
そして彼の家でもある。



やはりErnest君だった。
さすがKohaku隊長。鋭い洞察力である。
Ernest君は「しょんぼりファイター同好会」のギルドマスター。
見事にあたい達をしょんぼりさせてくれた。



愛するニワトリ達を殺害されて号泣するKohaku隊長
自分の家をテロから守っただけのに糾弾され、途方に暮れるErnest君

こうして作戦は失敗に終わった。


・・・いや、
まだ終わっていない。



Kohaku()
狙い目はフィアちゃんちかコテツさんちかなって



そう。

ターゲットはもうひとつあったのだ。






時間がない。
すでにコテツ殿がログインする時間帯だ。
いつ我々の前に「黒衣の騎士」が現れるか分からない。
急がねば・・・!


 緊急にFia隊員が部隊に加わった。
 Enrest君も志願したのだが、
 彼を部隊に加えることは
 動物を扱う作戦の性質上、
 あらゆる意味においてリスクを伴う。

 そこでFia隊員が選ばれたのだ。
 Kohaku隊長の判断である。

 Fia隊員は調教スキルGMだ。
 あたいよりよっぽど頼りになる。
 Kohaku隊長が溺愛するのも当然だ。





Kohaku隊長に認めてもらいたい。
調教スキル100と99.8ではそんなに違うのか。
あたいもKohaku隊長の愛が欲しい。



つい仕事に熱が入り、
あっと言う間にターゲットの家がニワトリで埋まる。



やるべき事はやった。
あとは家主が帰ってきてビックリするのを
隠れてほくそ笑むことで作戦は成功となる。



全員が配置についた。
あたいとFia隊員とで部屋の隅を固め、
Kohaku隊長が入り口を守る。
これが雲龍の陣である。



息を潜めるテロリスト達。



10分が経った。

ふと、
見知らぬ人が通りかかり、家の前で足を止める。
やはり大量のニワトリに気づいたのか、
おもむろに扉を開けてしまった。

うっ、せっかく集めたニワトリが外に逃げてしまう!
オロオロするばかりのあたいをよそに、
Kohaku隊長が姿を現し、凄い剣幕でその不法侵入者を追い返す。
すごい・・・
この隊長の元で働けて良かった。



再び静寂が戻る。
いったい、どのくらいの時が経っただろう。

コテツ殿がいつログインするか分からない。
もしかしたら、
今日は来ないかもしれない。











来た!!

ちょうどFia隊員が隠れている場所に現れた黒衣の騎士。
すぐに我が家の異変に気づき、固まる。

kotetu()

Emeraldas()

Fia()

kotetu()
わしの家ニワトリだらけなんですが・・・(=|

あら、そう?(=▽=)?

ペット(=▽=)?

しかも綺麗に整列してるんですが(=|

あたいとFia隊員との完璧な演技により、
コテツ殿も犯人を特定できない。



静寂が戻った。
UO内では相変わらず黙ったまま、
静かにニワトリを見つめるコテツ殿。
そのすぐ側で息を潜める3人のテロリスト。


こうして我慢比べが始まった。






1分・・・


2分・・・







とうとう夜が来た。
ブリタニアで最も美しいディシートの夜。
月明かりに照らされる黒衣の騎士とニワトリ。
なんて美しい光景だろう。



膠着状態が続く。
姿は見えていないはずなのに、
あたいが隠れている場所をじっと見ているコテツ殿。

痺れを切らして何度叫ぼうと思ったことか。

ヽ( ・∀・)ノ ウンコー
と大声で叫んでしまえばどんなに楽か。
そのたびにKohaku隊長の殺気を感じ、思いとどまる。
こんなに辛い作戦は初めてだ・・・




kotetu()

kotetu()
野生化しているみたいなんですが(=|

タマゴでも産みそうな勢いなんですが(=|

あくまでUO内で反応を示さないコテツ殿。
まさか目の前にテロリスト達が潜んでいるとは思わないのだろう。







ついに動いた!

突然、コテツ殿が転移魔法を唱え始める。
ダンジョンで死んだ友人を助けに行くようだ。



予期せぬ事態だが、
テロリスト達に打ち合わせは不要だ。
次にするべき事は全員が分かっている。



まさに一瞬であった。
ついさっきまで元気に走り回っていたニワトリ達が、
一瞬で動かぬ肉塊となった。



心から楽しそうなFia隊員
言う前から解体を始めているKohaku隊長
そう。これがテロリストなのである。



再び姿を隠すテロリスト達。
コテツ殿がこの場を去ってから1分にも満たない。
この手際の良さとチームワークを、
もっと違う方向に向けるということは考えないのだろうか・・・




再び静寂が訪れる。
いったい、これで何度目だろう。
しかしそれも次で終わる。
「死体」という、
ニワトリ達の最後のパフォーマンスで終わるのだ。

それにしてもコテツ殿、
びっくりするだろうな。
ある日突然、自分の家がニワトリで埋め尽くされて、
次の瞬間にはその全てが血を流して死んでいる。
黒衣の騎士が呆気にとられて立ちすくむ姿が目に浮かぶ。
くっくっく・・・









コテツ殿まだかな・・・








早くしないと・・・








んー・・・








ニワトリの死体が・・・








Noooooooo!!! ヽ(`Д´)ノ

テロリスト達の手際が良すぎたのが仇になったか。
同時に殺したから、死体も全て同時に消えた。

まぁ、死体が無くても、
床一面が血の海なのも、ある意味おもしろい。




・・・・・・・・・・・





まだか・・・





あたいがこれほど人を待ち焦がれるなんて久々だ・・・







ようやく帰ってきたコテツ殿。

早く!早く!
あなたの家が血の海ですぞ!!ヽ(`Д´)



うそーん (;´Д`)

まさにコテツ殿がドアを開けた瞬間に、
血の海が消え去ってしまった。
あまりにもタイミングが良い。
結局、何の被害も被らなかったコテツ殿。
黒衣の騎士は、何か目に見えぬ存在に護られているようだ。



またもや隠れているあたいの側に来るコテツ殿。
熟女の臭いでもするのかしら・・・
ニワトリが消え去ったことにも当然すぐに気付き、
不思議そうな顔でたたずむ。



そして、
この長い戦いにもついに終わりの時が来た。
コテツ殿が再び転移魔法を唱え、
どこかへ飛び立っていったのだ。
そして、もう戻っては来なかった。
最後まで、一言も言葉を発することなく・・・



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



あたいがブリタニアに生まれて2年半。
そんなあたいの、さらに先輩であるコテツ殿。
トラメルが無い時代を生き抜き、
幾多の時代の変化を見届けてきた黒衣の騎士。


テロリスト達がターゲットに選んだ相手は、
あまりにも大きすぎたのだ。
黒衣の騎士にとっては、
我が家にニワトリが現れ、そして消えた。
それだけのこと。取るに足らない出来事だったのだ。
あたい達の負け。完敗である。






でも・・・








なんか悔しいので、
手持ちの不要品をぶちまけて来ました。
つーか、
5gpの小切手なんて持っていたの誰?(;´Д`)





この物語はフィクションであり、
実在する人物、団体とは、
一切関係ないような気がします。