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私はメーテル。

…何を書けば良いのかしら。



えーと、
エメ姉さんは2階で寝ています。
なんか徹夜で呑んで来たらしく、
帰ってくるなり玄関で寝てしまいました。もちろん裸です。

姉さんを2階に運んだとき、
寝室でこの日記帳を見つけました。
姉さんが日記を書いているのは知っていましたが、
いつもどこかに隠してあるので、
何が書いてあるのかは今まで知りませんでした。

姉さんには悪いと思いましたが、
興味があったので少しだけ覗いてみると、
偶然開いたページに私のことが書かれていました。
…ずいぶん脚色されています。ショックでした。


最も真実を伝えるには、
やはり本人が書かねばなりません。
エメ姉さんの日記帳の1ページを借りて
今日は私が書くことにします。

私について…




――――――――――――――――――





私はメーテル。
トレジャーハンターです。
昨日の話をしましょう。

情報収集のためにブリタニアの町々を渡り歩いていました。
ジェロームを訪れたときのことです。
宿屋の前に座り込んでいた老人から、汚れた地図を買いました。

インクが薄れ、ほとんど読めなくなっているその地図が、
レベル3の財宝の埋没地点を示す地図であることが
私にはひとめで分かりました。

さっそく宿屋の一室を借りて地図の解読を始めました。
私の持っている資料と照らし合わせたところ、
どうやらスカラブレイの西に浮かぶ孤島のようです。





財宝を護るモンスターとの戦い。
さすがに私の魔術だけでは生き残れません。
今日もゴーレムを操ってモンスターを撃退します。
彼の名は「Ryuz VerIII」
私が細工スキルで創った機械の戦士です。
主人に忠実で、愛すべき私のしもべ。

たまに動きが鈍くなる時もありますが、
尻のあたりを蹴ると動きが機敏になります。
慣れると扱いやすい、可愛い子です。

彼をモンスターの集団に突撃させ、
その場所に爆弾を投げまくるのが私の戦い方。
主人による爆撃に、なぜか彼は幸せそうです。



そうして今日も無事に財宝を手に入れ、
街に戻って荷物の整頓をしていた時のことです。

私の貸し金庫の中に、
見覚えのないバックパックがありました。
なぜか嫌な予感がします。



中を見てみると、
信じられないほど大量の宝石が入っていました。

まさか…

…エメ姉さん…?

これがもしあの人の仕業だとすると、
正規のルートで手に入れたとは考えられない。
顔から血の気が退いていくのが自分でも分かりました。
いけない!
もう触ってしまった!
私も…共犯者…
いや、落ち着け、私!
冷静になるんだ。

周りに人がいないのを確認すると、
大きく深呼吸しました。

とにかく、この宝石は何なのか。
手がかりを探さねばなりません。
落ち着きを取り戻したところで、
もう一度、バックパックをよく見てみました。
飾り気のない、薄汚れた箱。
しかし相当に使い込まれています。
ふと、懐かしい匂いがしたような気がしました。
そのうち、
隅に小さくサインが書いてあるのを見つけました。
「musasy」と。


むさすぃ兄さん…




私たちには兄がいました。
このブリタニアの地に最初に降り立ち、
幼い私たちに貧しい思いをさせないようにと、
毎日のようにダンジョンに潜っていった兄。

戦士としての道を歩んだむさすぃ兄さん。
しかし時代の変化には追いつけず、
去年の春、ついに精神に異常をきたし、
友人知人を次々と惨殺。
最後は侍らしく割腹自殺をしました…

どうやらこの宝石は、
むさすぃ兄さんの遺品のようです。
リッチ狩りが趣味だった兄。
宝石を隠し持っていたのにも納得がいきます。
自分のパンツにも名前を書く人だったから、
バックパックのサインも本人のものに間違いはないでしょう。
エメ姉さんはあのようにズボラな性格の人だから、
兄さんの形見分けも適当に済ませたのです…
確かこのバックパックも、
中身も確認せずに私に押し付けたんだっけ。



そこで私は重要なことに気付きました。
この宝石の存在をエメ姉さんは知らない。
…ということに。



気がつくと私は宝石屋にいました。
顔なじみの店主は、
珍しく大量の宝石を持ってきた私の顔を見ると、
「ヒュー」と小さな口笛を吹き、
いつものように小切手を切ってくれました。



時間がありません。
いつエメ姉さんが私の行動に気付くか分かりません。
ここはブリテン。ブリタニア最大の街。
思いっきりエメ姉さんのテリトリーです。

すぐに銀行に戻り、
持てるだけの宝石を担いで宝石屋に戻りました。

再び大量の宝石を持ってきた私を見ると、
明らかに店主は驚いていましたが、
そこは彼もプロ。
宝石の出所を問うような野暮なことはしません。
何か言いたげな顔をしながらも、
それでも正確に小切手を切ってくれました。





私も容赦しません。
目の前のチャンスを逃すなんて、
トレジャーハンターとしてのプライドが許さないのです。
そしてなにより、
あのエメ姉さんを出し抜けるチャンスなど、
そうそう巡ってくるものではありません。
私だって素敵な服が着たい。
新しいゴーレムだって欲しい。

繰り返し宝石屋を訪れる私に、
明らかに店主は不安そうな顔をしています。
私は彼に一握りの金貨を握らせました。
店主はニヤリと笑うと、
今度は周りの客に見えないように小切手を渡してくれました。
こういう分かりやすい人は大好きです。



むさすぃ兄さんのバックパックがついに空になりました。
かわりに私の鞄は小切手で埋まっています。
銀行でまとめてみましょう。
いくらになったのかしら。ワクワクします。

いけません。
こういうところで緊張を緩めては駄目です。
あのメアに乗った鍛冶屋がどこで目を光らせているか分かりません。
まだ終わっていません。
帰るまでが遠足なのです。








なんと、16万もの大金が転がり込みました。
私が自分の力でこれだけの金額を稼ぐには、
いったい宝の地図を何枚解読すれば良いんだろう…
これで当分は遊んで暮らせそうです。


空っぽになったバックパックを胸に抱き、
天国にいる兄に想いを馳せました。

「むさすぃ兄さん、ありがとう」




――――――――――――――――――



……………

夢中になって日記を書いていたら、
辺りはすっかり暗くなっていました。

エメ姉さんはまだ起きてきません。
…もしかして、死んでるんじゃ…?
ちょっと心配になって様子を見に行きましたが、
階段を途中まで上ったところで
凄まじいイビキが聞こえてきたので大丈夫でしょう。


さて、
この日記帳もそろそろ姉さんに返さねばなりません。
勝手に書いちゃったから、姉さん怒るかしら…
いやそれより、
この日記帳のこと忘れてるんじゃないかしら。
最近全然書いていないみたいだし。

まぁ、あの人のモットーは「自由」
遊びたいときは遊んで、
勉強したいときは勉強して、
暴れるのも、人様に迷惑かけなければ良いでしょう。
お客さんにセクハラして逃げられるのは困るけど…

この間も、
出会ったばかりのお客さんと血エレ狩りに行ったみたいだし、
そういう尻の軽いところも、エメ姉さんらしいと言えばらしいか。


そんなわがままで遊び人な姉ですが、
みなさん今後とも宜しくお願いします。
それでは、私とはまたどこかでお会いしましょう。
さようなら。



                               Maetel